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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1015号 判決

控訴人(被告)

大塚正男

被控訴人(原告)

瀬古沢貞郎

ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人両名の本訴請求を棄却する。訴訟費用は、第一・二審を通じ、被控訴人両名の負担とする。」との判決を求め、被控訴人両名は、主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  控訴人の主張

控訴人は、トラツク二台を所有して運送業を営み、吉野石膏の石膏運搬業務に従事しているものである。

そして、訴外本田陽造(一審共同被告)は、自家用トラツク一台(被告車のこと)を所有運転している者であるが、本件事故前たまたま負傷したため稼働することができなかつた。同人は、自動車の月賦代を支払うため、被告車を稼働して収益をあげる必要があることから、控訴人に対し運転者を世話してくれと頼んできたので、控訴人は、訴外高橋正一(分離前の共同控訴人)を訴外本田に紹介した。

そこで、訴外本田は、訴外高橋を被告車の運転者として雇い、控訴人に対し運送の仕事を廻わしてくれと頼んできたので、控訴人は、訴外本田に対し、吉野石膏の石膏を福島県いわき市から茨城県藤代市まで運送することを委託し、訴外本田が、被告車を高橋に運転させてこれを運送したものであり、その運送費一万三、〇〇〇円を控訴人は本田に支払つた。

右のように、控訴人は、訴外本田と運送契約を結んだものであり、控訴人と訴外高橋とは雇傭関係はなく、指揮監督する立場になかつた。

したがつて、控訴人は、被告車につき運行支配も運行利益もなかつたから、被告車の運行中の本件事故について、自賠法三条にもとづく賠償責任も、民法七一五条にもとづく賠償責任もない。

(二)  右主張に対する被控訴人らの答弁

争う。本田と高橋は一面識もなく、本田が高橋を雇うわけがない。本田は控訴人に被告車を貸したものであり、被告車は、控訴人の指図にもとづいて運行されたもので、その運行支配および運行利益は、本田とともに控訴人にも帰属している。

理由

当裁判所は、被控訴人両名の本訴請求を、原審の認容した限度において、肯認すべきものと判断するが、その理由は、次に付加するほかは、原判決が理由で説示するところと同一であるから、これを引用する(但し、原判決一二丁表末行の「として約一万円位」を削り、同裏四行目の「被告本田」を「被告大塚」と改める。)。

控訴人は、控訴人と訴外本田との間に運送契約が成立していることを理由として控訴人に被告車の運行支配も運行利益もともに帰属しないと争つている。

しかし、前記認定のとおり、控訴人が個々の物品の運送を本田に委託したのではなくて、本田によつて被告車が控訴人方に持ち込まれ、控訴人において自己が吉野石膏との間に結んでいた物品運送契約にもとづき、その石膏運搬のため、車を配分し、被告車の運転者訴外高橋に対し荷送先を指示してこれを運送させたのであり、右石膏運送により吉野石膏から運送料を得ているのであるから、控訴人にも被告車の運行支配と運行利益が帰属していたというべきである。

よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法八九条、九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正二 奈良次郎 小川克介)

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